リーマンショック以来数十年ぶりの昨年末の株高にもかかわらず、中小企業の経営環境が益々厳しくなることは多くの経営者の一致した認識です。
今年の日本経済は厳しい環境に置かれることは明らかで、皆様の予想の通り中小企業の経営は、一層厳しいものになると考えられます。
今年の中小企業の経営環境は、新型コロナ感染抑止の成否、米中の世界覇権争奪戦の動向、財政負担の増大と国家財政状態の悪化によって大きな影響を受けます。
新型コロナ問題と中小企業:
新型コロナは変異種も現れて、従来の対策を一層厳しくせざるを得ない状況になっています。世界各国でコロナ予防ワクチンの接種が開始されていますので、その予防効果が広く確認されてくれば、経済活動へは大変明るい兆しが生まれます。
新型コロナは人の移動を止めてしまいました。
人の移動と集合(離散)が出来なくなれば、当然のことながら経済活動も止まります。既に経験したように航空機利用客(国際、国内)の減少、新幹線を始めとした鉄道利用客やタクシー利用者の著しい減少、飲食、旅行、会合、イベントの中止によって、これらに関係する事業者は大きな痛手を被りました。
私どものクライアントも全くその渦中にあります。幸いにも昨年は土木建築業界や製造業、運送業などには大きな打撃は及んでいませんが、少しずつその余波を受け始めています。
もし、このような業種で現実に感染者が発生したら、経営活動に大きなダメージを受けます。じわじわと新型コロナ感染の影響が全業種の企業に忍び寄っています。
対策すべきは個人と個別企業の感染防止対策の徹底を継続することしかありません。
感染者や濃厚接触者が出た時の対応マニュアルの整備と予行演習も大切だと思います。一方で国家的、地域別の感染予防手段と治療体制の構築が喫緊の課題ですが、現場で感染者が出た事業所の生の声を聴いてみると、当局の現場に対する指導、指揮、支援行動は発生現場の人達にとって非常に頼りない状況であったとのことです。
現場を動揺させないために、一刻も早く当局の発生現場指導体制の整備を望むところです。
ところで新型コロナ問題に限って言えば、国家統制の効いた中国が、明らかに欧米や日本などの自由主義諸国より勝っていたと言えそうです。権利と自由をおもんばかってコロナ感染者を増大させてしまった結果になりました。
中小企業もこの例に学び毅然たる経営統制ができる体制を構築すべきです。
米中世界覇権争いと中小企業:
米中の覇権争いの中身は、経済的覇権、軍事的覇権、技術的覇権、政治的覇権など多岐にわたっています。この国際的な覇権争いに日本も当然に無縁ではありません。このような覇権争いに対しては個別の中小企業では何とも対応しようがありません。
日本の国家政策、国家戦略を注視して、自らの経営戦略を常に工夫することが必要です。できる方策としては、国家間の争いに左右されることがない市場を確保する経営方針に基づいて経営活動をすることでしょうか。
元々、国内の個人や企業を顧客とする中小企業は、顧客に対して提供する商製品や用役の品質、価格、納期などの顧客満足度を高めるための一層の経営努力が必要です。輸出関連事業者である中小企業は、提供する物品や用役を国内市場向けに振り替えるための商品開発や顧客開拓に目を向けることが大切かも知れません。
これには相当の時間がかかりますので少しずつ進めることしかできないと思います。既に海外に子会社を立ち上げている中小企業も少なくないのですが、海外進出現地企業の経営は簡単ではありません。事情が許されれば国内回帰の検討が必要かも知れません。
米中対立の間にあって日本としては非常に難しい立ち位置にあります。
中国による第1列島線の確保のための南シナ海と東シナ海(尖閣)への軍事進出と台湾への軍事的威嚇、東南アジアからインドへの軍事戦略と一帯一路戦略は、中国共産党の終身指導者となった周近平国家主席の中華思想に裏打ちされた戦略です。
イギリスは航空母艦を、フランスとドイツは海軍艦船を極東に向かわせ、インド、オーストラリア、アメリカ、日本はインド洋で共同軍事訓練を実施しています。頼みの米国は大統領自ら国民分裂の危機を醸成してしまい、世界のリーダーとしての資質に疑問が呈されています。
今年は世界の先進国GDPがマイナス成長ばかりの予測の一方で、中国は共産党政権の下で世界唯一GDP4%のプラス成長、米国を抜きGDP世界No.1の経済国家になると予想されています。
国家間での政経分離、互恵理念の実践状況を冷静に観察して、海外向けの経営戦略を再検討すべきかもしれません。香港問題にみられるように中国の法律は一朝一夕にして変わることもあります。
中国共産党が立法、司法、行政の3権力の最上位にあるためです。海外進出も重要な経営戦略ですが、新型コロナでの学習効果を生かして、地域オンリーワン中小企業になるというような、国内目線での経営目標を改めて考える時期かも知れません。
国家の財政負担の増大と中小企業(並びに個人):
従来から日本の国家財政に対しては「健全化」が課題になっていました。さらにコロナ禍で僅か1年に満たない期間に、国と地方は大きな財政負担をせざるを得ない環境に追い込まれました。
- GOTO(トラベル、イート)事業継続支援
- 時短営業支援
- 家賃補助
- 雇用調整給付
- コロナ対策無利子融資
- 租税の延納(延滞税免除)と減免など
国家と地方が極めて多くの財政(税資金)出動を実施したのです。
昨年末の株高は、全世界各国が市場に供給した資金が一時的に株式市場に流れたまでです。国際政治や企業業績悪化、個人消費低迷の環境下での株高など起こりえない現象です。
自明の理ではありますが、これらはいずれ間もなく国民が負担することになります。
租税や社会保険料の負担増加、社会福祉サービス、子育て支援サービス、研究や教育サービスなどの国と地方自治体が関係する様々な政策分野で、国民がこれを負担する時が到来するのです。
今国民はこの負担に関する議論を先送りにしています。
所得税率、贈与税率、相続税率、法人税率、消費税率、社会保険料率などのアップ、左記の税目に関する基礎控除金額の引き下げは、さほど遠くない時期に実施せざるを得なくなります。
個人と中小企業はこれにどう対処したらいいのでしょうか。
マクロ経済的には望まれる企業行動ではありませんが、中小企業の基本戦略は縮小均衡を図ることです。
固定費を削減して少ない売上でも損益が分岐する事業規模にすることが必要です。設備縮小や人員削減などは一朝一夕にはできませんので、事業規模縮小に向けた中期計画の作成を早急に進めるべきだと考えます。
また大きな会社組織を中小の会社に分割再編成して、悪化した事業からの撤退がしやすい組織に再編成することも重要だと考えます。臨機応変に環境適応が可能な組織を構築することを進めるべきであると考えます。
個人の贈与税や相続税負担が軽くなることなど現在は考えられません。一時、贈与税の基礎控除額110万円を廃止することも政府税制調査会で俎上に上がったと言います。
特に高額所得者、富裕層の租税負担、社会保障費負担は益々大きくなると思われます。事前に時間をかけて様々な工夫を合法的に、合理的にすべき重要な時期が来たように思います。
まとめ:
今年はじっと忍耐をもって次に打って出ることができる体制固めの年だと思います。
最悪でも生き残れる環境を作る時期だと考えます。
先が見えない環境の中で行動を起こす時期ではなく、環境変化を冷静に観察して次に備える準備の時だと思います。冗長に過ごすのではなく、良くも悪くも次への体制づくりを進めなければなりません。
勝てなくても負けることがない企業づくりを今年の最優先課題にしては如何でしょうか。
結びに皆様のご健闘に期待申し上げます。
令和 3年 1月 4日
野田公認会計士事務所
所長 野田 勇司